帽子の肖像 Profile.25
振付稼業air:man 杉谷一隆
帽子が本当に似合う人。それは格好良く年齢を重ねた大人かもしれない。
スタイルの変遷、年輪が醸し出すものが、帽子をかぶった肖像に現れる。
連載「帽子の肖像」では、2枚のポートレート写真、そして5つの共通質問に対する短い言葉から、帽子の達人たちの肖像を浮かび上がらせます。
今回はコレオグラファー(振付師)としてエンターテイメントの第一線で活躍する、振付稼業air:man の 杉谷一隆さんが登場。
トレードマークともなっている絶大なインパクトの帽子の誕生秘話とは。
振付稼業air:man
杉谷一隆
“タクシーに乗る時は不便ですけどね。”
あなたが帽子をかぶり始めた時のことを教えてください。
18歳の頃に長髪のドレッドヘアにしたんです。一番長いときは、くるぶしくらいまでありました。それを結えて中にしまえるように、最初はボブ・マーリーみたいな感じのニット帽をかぶり始めたんです。でもラスタに傾倒していたわけではなく、レニー・クラヴィッツみたいに、長髪ドレッドだけどロックをやってる、みたいなところがいいなあと思って。こういう帽子にしたのは、20年以上前に振付稼業air:manを始めた頃。「もっとお洒落な帽子はないかな」と思って、CA4LAさんにオーダーで作ってもらうようになりました。
あなたが憧れる(憧れた)帽子をかぶる人とは?
一番影響を受けたのは(アメリカの俳優 / ダンサーの)フレッド・アステアです。高校生の頃に博多の映画館でリバイバル上映していた『恋愛準決勝戦』を観たのが最初ですが、彼がミュージカルや映画の中でハットをかぶって踊ると、帽子がちょっとズレるんです。そしてそれをスッと直す。その帽子のズレを直すところまでを一連のダンスにしているのが、さりげなくてカッコよくて。マイケル・ジャクソンも大好きですけど、フレッド・アステアは源流のような感じなんですよね。その影響は今の自分の仕事にも繋がっていると思います。
あなたが帽子をかぶる時に気をつけていることを教えてください。
いつもだいたい細いレザーパンツにライダースジャケットを着ているのですが、帽子で頭がポコっと大きめのバランスにするのが自分のスタイルになりました。帽子はもう少し目深にかぶりたいけど、これまたいつもデカいメガネがあるので、下げるにも限界があって。だから少しツバを大きめに作ってもらったり、かぶるときはツバの部分を波状にしたりして、少しおでこが見えるようにしていますね。あとこんなデカい帽子ですけど、なるべく軽く作ってもらうようにお願いしています。重いとやっぱり首がキツいんですよ(笑)。
今日かぶっている帽子について、教えてください。
CA4LAさんに特注で作ってもらっているもので、全部で30個くらいあります。今日かぶっているのが、20何代目のもの。オーダーの時は自分で簡単なラフを描いてお渡しするのですが、なぜか作るたびにどんどんデカくなっているんですよ(笑)。ウチのメンバーもみんなここで帽子作ってもらっているけど、「杉谷さんのは大きくしておきましたから」って。“偉い人ほど大きい”コックさんみたいなイメージなんですかね。大きくなるにつれて、熊手みたいに値段も高くなるし、困りますよ(笑)。でも一番気に入っている帽子です。
あなたの人生にとって帽子とは?
なくてはならないもので、良くも悪くもこのビジュアルで仕事を続けているので、自分にとっては仕事着でもあります。振付の最中もずっとかぶっているし、「あのデカい帽子の人」というパブリックイメージも出来上がっているし、これで現場に入ると「あ、エアーマン来た」って思ってもらえます。だから仕事着でもあるけど、自分にとってはこれをかぶっているのがナチュラルな状態でもあります。タクシーに乗るときは不便ですけどね(笑)。
撮影:清水健吾
編集:武井幸久(HIGHVISION)
振付稼業air:man 杉谷一隆 /
Kazutaka Sugitani
(Furitsuke Kagyou air:man)
1972年生まれ。福岡県博多で育ち、大学在学中から演劇を始め、卒業後に東京でイベントオーガナイズや演劇集団の主宰などを経て、2004年に菊口真由美 と 振付稼業air:man を結成。CM、MV、舞台など様々なジャンルで活躍し、2008年『UNIQLOCK』で世界三大広告賞「カンヌ国際広告祭」、「One Show」、「クリオアワード」でグランプリを受賞。2015年にOK Goの『I Won’t Let You Down』で「MTV VMA 2015」のBEST CHOREOGRAPHY賞を受賞。膨大な古着コレクターでもあり、自ら鋲ジャンを多数製作するなど、多彩な横顔も持つ。
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