帽子の肖像 Profile.16
テリー伊藤
帽子が本当に似合う人。それは格好良く年齢を重ねた大人かもしれない。
スタイルの変遷、年輪が醸し出すものが、帽子をかぶった肖像に現れる。
連載「帽子の肖像」では、2枚のポートレート写真、そして5つの共通質問に対する短い言葉から、帽子の達人たちの肖像を浮かび上がらせます。
第16回目は、伝説のテレビ演出家にして、タレントとして八面六臂の活躍を続けるテリー伊藤さん。さまざまな帽子をかぶりこなす“帽子の 天才”の秘訣とは?
テリー伊藤
“帽子はね、かぶったモン勝ちなんですよ”
あなたが帽子をかぶり始めた時のことを教えてください
僕は演出家として気が弱いところがあって、人並みに迷いとかもあるんですよ。僕が昔から一緒にお仕事してきた、たけしさんや所さん、タモリさんみたいな第一線の方は、「コイツはどれだけの演出するのかな」って見ているところがあって、現場で「どうするの、次は?」と聞いてくる。そういうときには「もちろん、やっちゃいますよー!!」と勢い良く言うけど、実はその内側で迷っている自分の目を見透かされたくないからと言う理由で帽子をかぶり始めたところはありますね。今でこそヘンな帽子もかぶっているけど、最初は普通のキャップとかキャスケットでしたよ。
あなたが憧れる(憧れた)帽子をかぶる人とは?
小さい頃は西部劇の人たちのテンガロンハットが好きでした。眠るときも顔に乗せたりするのもいいじゃないですか。個人的に強烈だったのは、若い頃の美輪明宏さん。学帽みたいなのを敢えてあの美少年がかぶるわけですよ。今だとああいう格好の人もいるけど、当時は鮮烈でした。オノ・ヨーコさんの帽子のかぶり方も昔から凄かったね。ジョン・レノンもヨーコさんの“不良性”みたいな部分に憧れたんじゃないかな。ファッションって、“違和感”なんです。異物を持ち込まないと革命は生まれない。帽子のかぶり方ひとつにもそれはあると思いますよ。
あなたが帽子をかぶる時に気をつけていることを教えてください。
よく聞かれるんですけど、みんなに言ってます。帽子はね、かぶったモン勝ちなんですよ。帽子が似合うとか、似合わないとか、そもそもないんです。「私、顔が丸いから帽子似合わないんです」、「そんなの関係ないよ」と。自分で限界を決めちゃダメだし、常識なんて自分の中で作っていけばいいんだから。これは演出家という仕事柄なのか、経験や知識なんて重荷だと思っているし、どんな風にかぶっていようが、人に迷惑さえかけてなければいいんですよ。僕が持っている帽子の数? いやもう数えてないですよ(笑)。
今日かぶっている帽子について、教えてください。
これ、どこの帽子か分からないんです。日本のメーカーだと思うけど、どこで買ったかも覚えていない。(※取材時にイギリスの老舗デザイナーstephen jones[スティーブン・ジョーンズ]のものと判明)。あ、そうなんだ。なんだ、有名なやつか(笑)。こんな帽子見たことないし、面白いかなと思ってどこかで買いました。僕はお酒をあまり飲まないので、酒好きが赤提灯に行くみたいに、2日に1回くらいは仕事帰りに洋服屋に行くんです。お店の人も僕がヘンなのしか買わないのを分かってるから、昔の衣装とかが入荷すると教えてくれるんだよね。
あなたの人生にとって帽子とは?
それはもう、ただ楽しいものですね。かぶることで気分が変わるし、別な自分に変身もできる。僕にとって帽子は「いい友」でもあると思います。ファッションもそうですけど、みんな楽しく帽子をかぶればいいんですよ。僕は人にさえ迷惑をかけなければ、人生なんだっていいと思っているんです。自分がどんな格好をしようが、それで笑われたって、人に迷惑かけてるわけじゃないですからね。
撮影:清水健吾
編集:武井幸久(HIGHVISION)
1949年生まれ。東京都出身。演出家。大学卒業後にテレビ番組制作会社に入社。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』、『ねるとん紅鯨団』、『浅草橋ヤング洋品店』など数々のヒット番組を手掛ける。演出家としてだけでなく、タレント、コメンテーターなどでも幅広く活躍。YouTubeチャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』でも発信を続けている。