帽子の肖像 Profile.13 大久保篤志
帽子が本当に似合う人。それは格好良く年齢を重ねた大人かもしれない。 スタイルの変遷、年輪が醸し出すものが、帽子をかぶった肖像に現れる。 連載「帽子の肖像」では、2枚のポートレート写真、そして5つの共通質問に対する短い言葉から、帽子の達人たちの肖像を浮かび上がらせます。 第13回目は、日本を代表するスタイリストであり、The Stylist Japan®のディレクターでもある大久保篤志さん。
5 QUESTIONS TO
大久保篤志
“いつもミュージシャンの帽子スタイルを参考にしてきた”
あなたが帽子をかぶり始めた時のことを教えてください。
自分では記憶がないけど、たぶん5歳くらいの頃にハンチングを後ろかぶりしている自分の写真を見つけたんだ。親がお洒落好きだったからそういう格好をさせられていたわけだけど、今見ると嬉しいよね。お洒落させてくれていたんだ、って。会ったことはないけど、うちの祖父もお洒落にハットをかぶっていた写真がたくさんあったから、そういう流れもあるのかもね。でも自分自身はずっと長髪に憧れていたので、若い頃はあまり帽子をかぶってこなかった。30歳過ぎた頃かな、ファッションとしてハットをかぶりはじめたのは。
あなたが憧れる(憧れた)帽子をかぶる人とは?
グループサウンズ「ザ・テンプターズ」のドラムの大口広司さんという方がいて、よくご一緒したんだけど、その頃の大口さんのパナマハットのかぶり方がすごく格好良くて影響を受けたね。パナマのツバを全部下ろすのがボブ・ディランのかぶり方にそっくりで、真似しようと思ったけど、なかなか難しい。大口さんに聞いたら「風呂入る時でも何でもかぶっていれば似合うようになるんだよ」と言われて、その通りにしたよ(笑)。そこからはボブ・ディラン、エルヴィス・コステロ、ジョン・レノンとか、いつもミュージシャンの帽子スタイルを参考にしてきたかな。
あなたが帽子をかぶる時に気をつけていることを教えてください。
ハットの場合はクラウンの高さとツバの長さ。自分の中のルールというか、クラウンが低いのは苦手で。あとはハットを自分らしい形になるまでなじませるのって時間がかかるでしょ。でもそれを徐々に自分らしく変えていく楽しみがある。一方、スタイリングの仕事で人に帽子をかぶせるのって難しいんだ。やっぱり普段からかぶり慣れている人じゃないと似合わない。僕の場合“その人らしいスタイル”を作ることが多いから、本人が違和感を感じちゃうようなスタイリングじゃダメなんです。毎回撮影で帽子を持っていくのは木梨憲武さんくらいかな。
今日かぶっている帽子について、教えてください。
これは僕のブランドのThe Stylist Japan®で2012年にボルサリーノとコラボレーションしたもので、この何年も秋冬シーズンはこれをかぶっている。もちろん帽子はたくさん持っているけど、かぶるのは決まってくるんだよね。クラウンの高さもツバの長さも気に入っているし、これも時間をかけて自分らしい形になってきた。このベージュの他に、グレー、ブラック、ネイビー、ブラウンの5色を持っていて、それぞれ微妙に形が違ってきているのも面白いんだよ。
あなたの人生にとって帽子とは?
まあ人生って言うほど大袈裟ではないけど、やっぱりコーディネートの“最終仕上げ”かな。最初に帽子ありきで服装を決めることもあるけど、ほとんどの場合最終的に帽子がコーディネートを仕上げてくれるよね。
撮影:清水健吾
編集:武井幸久(HIGHVISION)
1955年北海道生まれ。1979年に雑誌『POPYE』で北村勝彦氏に師事し、1981年にメンズを中心にしたフリーのスタイリストとして活動を開始。雑誌、広告、音楽アルバムやコンサート衣装、俳優やミュージシャンのスタイリングを数多く手がける。2006年にThe Stylist Japan®を設立。メンズファッションスタイリストの草分けとして数多くの弟子を輩出し、“生涯現役スタイリスト”として活動中。
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