帽子の肖像 Profile.29
熊谷隆志
帽子が本当に似合う人。それは格好良く年齢を重ねた大人かもしれない。
スタイルの変遷、年輪が醸し出すものが、帽子をかぶった肖像に現れる。
連載「帽子の肖像」では、2枚のポートレート写真、そして5つの共通質問に対する短い言葉から、帽子の達人たちの肖像を浮かび上がらせます。
今回は先日自身のブランド、GDCも復活させ、多方面で活躍するスタイリストの熊谷隆志さん。
熊谷さんが帽子をかぶるようになった意外な理由とは?

熊谷隆志
“断捨離する前は1000個くらいあったんじゃないですか?”
あなたが帽子をかぶり始めた時のことを教えてください。
昔からスタイリングの仕事ではかなり帽子は使っていました。編集者に「帽子多いんじゃない?」と言われるくらい。自分で本格的にかぶり始めたのは、スキンヘッドになった33歳頃からですね。その頃サーフィンを始めたんですが、当時はドレッドヘアで。でも髪の毛が水を吸って重いので、ハワイ行った時に全部剃った(笑)。スキンヘッドになってアタマが寂しいなと思ってから、帽子をかぶるようになりました。最初はボルサリーノをたくさん買って、そこからネイティブのジュエリーとかに合うウエスタンな帽子も探すようになりましたね。
あなたが憧れる(憧れた)帽子をかぶる人とは?
僕の中では(アーネスト・)ヘミングウェイ。彼が帽子をかぶっていたかどうかは分からないけど、『老人と海』みたいな作品に帽子のイメージがあって。あとは映画ですね。『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネ、俳優だとリバー・フェニックス、ブラッド・ピット、ジョニー・デップ、マット・ディロン。ブラッド・ピットが出た『テルマ&ルイーズ』の、ダンガリーシャツにウエスタンハットのスタイルも真似したり、僕と同世代か少し上の人たちの、映画の中でのスタイルには影響受けています。基本的に洋服が似合う人が好きなんですよ。
あなたが帽子をかぶる時に気をつけていることを教えてください。
自分のかぶり方は、いつもツバを上に上げるスタイルです。よくハット好きの外国人から、「帽子はこうかぶれ」ってツバを下ろされるんですけど、「うるせー、こうだ」って上に上げる(笑)。ギャング系映画の人は下げてかぶるけど、マット・ディロンとかブラッド・ピットは上げてかぶっていたから、その影響ですね。あとは汗染みや匂いは結構気にします。だからマメに頭を拭いたり、昔はミントみたいなのもスプレーしていたかな。
今日かぶっている帽子について、教えてください。
これはCA4LAとGDCでコラボレーションしたもので、打ち合わせでCA4LAに行った時に、ディレクターの秋元(信宏)さんがかぶっていたモデルが自分のイメージにピッタリで、「これでお願いします」と。普段自分の帽子は海外で買うことが多いんです。お店でちゃんと頭のサイズを測ってもらって買うのが好きですね。帽子はいまハットが200個くらい、他のを合わせると500個くらい持っています。でも断捨離する前は1000個くらいあったんじゃないですか?(笑)。帽子は幅を取るので、いつも海外で帽子のボックスを買ってます。
あなたの人生にとって帽子とは?
やっぱり体の一部なんでしょうね。帽子を取るとアタマが寒く感じるんですよ。ゴルフ場でも昼飯の時に帽子を取るのは嫌だし、「帽子を取れ」と言われるような場所は好きじゃないんです。この先もカツラをかぶる人生じゃなさそうだし、一生帽子をかぶり続けそうですね。

撮影:清水健吾
編集:武井幸久(HIGHVISION)
熊谷隆志 /
Takashi Kumagai
スタイリスト。1970年生まれ。1994年にスタイリストとしての活動をスタート。1998年に写真家としての活動も開始し、同年に自らがデザインを手掛けるブランドGDCをスタート。2011年にNAISSANCE、2018年にWIND AND SEAを立ち上げる。長年トップスタイリストとして君臨する一方で、数多くのブランドやプロジェクトのディレクションを手掛ける。2025年にGDCを再始動。
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