Portrait of a Hat Profile.18 Shigeru Izumiya
帽子が本当に似合う人。それは格好良く年齢を重ねた大人かもしれない。 スタイルの変遷、年輪が醸し出すものが、帽子をかぶった肖像に現れる。 連載「帽子の肖像」では、2枚のポートレート写真、そして5つの共通質問に対する短い言葉から、帽子の達人たちの肖像を浮かび上がらせます。 今回はミュージシャン、俳優、そして時には“怒れるご意見番”としても活躍を続ける泉谷しげるさん。泉谷さんの帽子に隠されたストーリーとは?
泉谷しげる
“帽子をかぶると素の自分以上の自分になれる”
あなたが帽子をかぶり始めた時のことを教えてください。
かぶり始めたのは22、3歳の頃だね。デビューした頃は髪が天然パーマのバッサバサでヒッピーみたいな格好をしていて、外を歩くと一発で泉谷しげるとバレてしまうので、それを隠すためにかぶりはじめたんです。変装ですね。まあ今から思えば、単なる芸能人チックな自意識過剰ですよ。確かにバレなかったけど、それほど有名じゃなかったって後から気づいた(笑)。周りに帽子が似合うとか言われて喜んでかぶっていたら、どんどん禿げちゃって。でもおかげで帽子が似合うようになったから、禿げてよかったのかもな。
あなたが憧れる(憧れた)帽子をかぶる人とは?
それはもう(俳優の)ハンフリー・ボガードです。あの人が演じる探偵のフィリップ・マーロウに憧れてね。探偵になるかミュージシャンになるか迷ったくらい(笑)。だから1988年に出したシングル「長い友との始まりに」って曲とかは、完全に『長いお別れ』の影響です。作品の中の探偵ってロクな目に合わないけど、だるそうにしながらも働くじゃないですか。男ってみんなそういうところあるし、だから僕の歌はいつも敗北者、ルーザーがテーマなんです。帽子っていうのは“戦う男の象徴”みたいなものですよ。いつか役者で探偵役来ねえかなあ(笑)。
あなたが帽子をかぶる時に気をつけていることを教えてください。
こんなボロボロの帽子をかぶっておいて、「気をつけてます」とか言っても説得力ないでしょ?だから特にないんですよ。多いのか少ないのかは分からないけど、帽子は30個くらい持っていますが、選ぶ基準は雨風に耐えられて、投げてもバーン!と叩きつけても、蘇ってくれる帽子。グシャグシャになってカッコいいものがいいですね。
今日かぶっている帽子について、教えてください。
よくかぶっているこの帽子は「長い友との始まりに」のジャケットで使ったものなんです。メーカーとかは気にしなかったけど、自分で選んだアニエスベーのやつ。でも、この帽子がパブリックイメージになりかけた頃に失くしちゃってね。そしたら1年後くらいに家の雨戸の隙間から出てきた(笑)。レザーなのに雨風に打たれてボロボロになってて、申し訳ないことをしたなと。でもかぶってみたら、自分の頭にピタッと来たというのかな。それからはもう相棒ですよ。長年使って脆くなってきたので、今は「ここぞ!」という時にだけかぶるようにしていますよ。
あなたの人生にとって帽子とは?
帽子がなかったらオレはオモテに出れないね。これはもう変装というより“変身”なんですよ。帽子をかぶると素の自分以上の自分になれるから。人間の素なんてつまらないものですよ。そんなの人が見たって楽しくねえぞ?と思いますよ、ほんと。帽子は自分にとっては防御でもあるし戦闘服でもある。だから帽子が見つからないときは本当に困っちゃう。お気に入りのハンチングが見つからなくて、外出やめたことあるもんね(笑)。だから何かでオレを見て、「今日の泉谷、元気ないな」と思ったら、それは帽子が見つからなかったんだと思ってくださいね。